継続してトマスの福音書を訳し、解説しています。トマスの福音書は、114節からなる「イエスの語録集」とも言われています。
9節
*Said-JS09 this: I-have-cast (a)fire upon-the-world, and behold, I-watch over-him* until-he-burns.
9直訳
JS09「イエスは言われた。私はこの世界に火を投じた。見よ、私はこの世界が燃えるまで、この世界を見守る」
ここで後節のhe-burnsの"he"は「世界」を指すか、「火」を指すかわからなかったのですが、荒井 献 氏は、火と訳していました。私は、コプト語原文ですと、この代名詞heとworldがより近いので「世界が燃えるまで」と訳してもよいと考えました。しかし、ルカの福音書に以下のように「火」を指すように語っています。
ルカ12:49 「わたしが来たのは、地に火を投げ込むためです。だから、その火が燃えていたらと、どんなに願っていることでしょう。」
JS09では、過去形で「火を投じた」とありますが、ルカの福音書では、「火を投げ込むため」に来た。「その火が燃えていたら…と願う」とあります。ルカの福音書では、まだ「火」が燃えていないことがわかります。ということは、JS09の方が遅い時期の発言ということです。では、「火」とは何でしょう。
以下のみ言葉から、「火」には2つの意味があるとわかります。1つは「火=聖霊」です。
マタイ3:11 「私は、あなたがたが悔い改めるために、水のバプテスマを授けていますが、私のあとから来られる方は、私よりもさらに力のある方です。私はその方のはきものを脱がせてあげる値うちもありません。その方は、あなたがたに聖霊と火とのバプテスマをお授けになります。」
もうひとつが、「火=さばきの火(ゲヘナ)」です。
マタイ25:41 「それから、王はまた、その左にいる者たちに言います。『のろわれた者ども。わたしから離れて、悪魔とその使いたちのために用意された永遠の火に入れ。』」
ルカ03:09 「斧もすでに木の根元に置かれています。だから、良い実を結ばない木は、みな切り倒されて、火に投げ込まれます。」
JS09の「火」は、すでに投じたものですから、審判の日に焼かれるゲヘナの火とは違います。この「火」は、聖霊の「火」です。そして世界中に燃え広がるまで「見守る」と言っているのです。聖霊の火は、ペンテコステの日以来、世界で燃え続けています。初代キリスト教会では、顕著に現れた聖霊のバプテスマとそれに伴う奇跡は、次第に火のように消えていき、中世の霊的暗黒時代を迎えました。しかし、熱心に瞑想し祈りの生活をするカトリックの修道僧の中には聖霊を受ける者もいたはずだと信じています。現代のペンテコステ派の始まりは、20世紀初頭アメリカのアズサストリートの集会場で、聖霊のバプテスマを受けた異言を語る群れが現れたことからだと伝えています。しかし、聖霊の体験は、18世紀にもあったと信じています。
私の好きな歌に「尊き泉あり」(聖歌428)という1700年代に作られた聖歌があります。歌詞はイギリスのWilliam Cowperが書いたものですが、その歌詞を紹介します。
①尊き泉あり その内より
インマヌエルの血ぞ 溢れ流る
罪に悩む者 くぐり入らば
汚れは洗われ 染みは消されん
②今わの際にて 盗人さえ
喜び仰ぎし 泉なれば
ためらわで 我も 彼の如く
ことごと洗われん 汚れをみな
③殺され給いし 子羊なる
主の血の力に 変わりあらじ
世より選ばれし 神の民の
清めの恵みを 受くるまでは
④主よ汝が傷より 流るる血を
信仰の目を上げて 仰ぎしより
贖いの愛は 我が心を
慰め導く 歌となりぬ
⑤回らぬ舌もて 歌いぬれど
栄えの御国に 移されなば
心ゆくばかり いとも妙に
救いの力を 称え歌わん
この聖歌を聞いて、「この作者は聖霊の恩寵にあずかっているなぁ」と思うこと一頻りでした。⑤「回らぬ舌もて 歌いぬれど 榮の御国に 移されなば」の箇所は、異言や霊歌の賜物を感じ、御国の体験も暗示させるところです。18世紀にもこのように聖霊の近しい体験をした方がいたのかと思うと、まことに慰められます。
そして21世紀の現在、聖霊の火はインドネシアやアフリカ、中国で大いに燃え上がっています。主は、その火が全世界で燃え上がることを見守っておられるのでしょう。その火は燃え移り、日本へそしてイスラエルへと広がっていくことを祈ります。
マラキ03:02
「 だれが、この方の来られる日に耐えられよう。だれが、この方の現れるとき立っていられよう。まことに、この方は、精錬する者の火、布をさらす者の灰汁のようだ。」
9節を意訳しますと、
9意訳
「イエスは言われた。私はこの世界に(聖霊の)火を投じた。見よ、私はこの世界に燃え広がるまで、この世界を見守っている。」
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